こんにちは.Star Brain Academy の堀です.

2018年11月10日・11日の2日間で,現在のセンター試験に代わる大学入学共通テストの試行調査(プレテスト)が実施されました.

昨年の同時期にも試行調査が行われましたが,今回は約8万4000人という大規模なもので実際の試験と似た形式で実施されました.

さっそく,Star Brain 独自の数学Ⅰ・Aについての分析をお送りいたします!

まず,形式面ですが数学Ⅰ・Aは

  • 試験時間:70分 (センター試験数学Ⅰ・Aは60分)
  • 問題形式:基本はマークシートだが,必答問題の中に小問で3つ記述式の問題がある.
  • 問題数:大問1・大問2は必答問題(数学Ⅰ),大問3・4・5から2題選択(数学A)

となっています.記述式を導入した分,試験時間が10分伸びました.また,当初の案では記述問題は段階別評価の予定でしたが,前回の試行調査で正答率が低かったり,そもそも無回答者が多発したため,100点満点の中に含まれることになりました.なお配点は

5点×3問=15点分 全体の15%分の配点を占める!

です.問題数としてはたったの3問ですが,配点としてはかなりのウエイトを占めることが分かりますね.

今回の試行調査の解答数は選択問題によって変動しますが,36問~40問です.2018年度のセンター試験の数学Ⅰ・Aは35~37問なので若干問題数も増えていて,記述が5点分あるため,配点が1点の問題も数問ありました.

では,それぞれの大問ごとに特徴的な部分を見ていきたいと思います.

第1問 (25点満点)

〔1〕分野:集合と命題

(1)からいきなり記述問題です.『「1のみを要素にもつ集合は集合Aの部分集合である」ことを集合の記号で表せ.』という問題でした.集合の記号を選ばせる問題は過去のセンター試験でも出ていますが,普段数学の答案に集合の記号を使うことは稀でしょうから

1∈A,1⊂A,{1}∈A

などの誤答がありそうです.正解はもちろん,{1}⊂A ですよ.

〔2〕分野:2次関数

コンピューター上に2次関数のグラフが表示されており,画面上で2次の係数や頂点の座標を変えるとグラフがどのように変化するかを答えさせる問題です.前回の試行調査でも同様の問題が出題されていました.コンピューター上の画面という現代的な設定ですが,数学の中身とは関係があるはずもありません.「日常生活における数学」がセンター試験と共通テストの違いのキーワードになっています.見かけに惑わされずに数学的内容を抽出する力が必要ですが,そこまで難しいことはないはずです.

〔3〕分野:三角比

学校の階段の高さ(蹴上げ)と幅(踏面)に関する問題です.最初に記述式の問題があります.『「階段の傾斜をちょうど33°にするとき,蹴上げを18㎝以下にするためには,踏面をどのような範囲に設定すればよいか.」を踏面を㎝として不等式で表せ.』という問題です.問題としては簡単ですが,その前に「建築基準法で踏面は26㎝以上」という記述があり,これを答に反映させないといけないようです.「それは大前提なんだから書かなくてもよいのでは?」と判断した受験生も多いように思います.また「≦」を「<」にしてしまうとダメであるというような採点基準のようです.

〔4〕分野:三角比

正弦定理を証明しようとしている太郎さん (くんではないんですねぇ) と花子さんの会話文に対する問題です.この対話形式の問題も必ず出題されそうです.学力の3要素と言われるもののひとつの「協働性」に関わる問題形式なのかな,と思います.内容としてはきちんと理解していれば即答できるようなもので計算はまったくないことが特徴的です.

第2問 (35点満点)

〔1〕三角比・2次関数

三角形の辺上を動く3つの動点でできる三角形の面積に関する問題です.センター試験では,あまり大問の中に複数の分野がまたがって出題されることはありませんでしたが,共通テストでは数学ⅠとAにまたがることはないものの,数学Ⅰの中だけであれば複数分野がひとつの大問内で出題されることはありそうです.本問の中に最後の記述問題があります.『3つの三角形の面積の大小関係が時刻とともにどのように変化するか答えよ.』ということですが,答はなんと「時刻によらず3つの面積は常に等しい」です.う~ん,これは受験生は戸惑うのではないでしょうか.ただでさえ,緊張している状態でむやみに受験生を惑わせるような問題は避けて欲しいなと思います.

〔2〕データの分析

またもや太郎さんと花子さんが表計算ソフト上のデータについて対話をしており,変量xyが2組,3組とデータ数が少ない場合の状況での平均値や標準偏差,相関係数の計算や定性的なことが問われています.センター試験でのデータの分析は15点分なのに対して,今回は19点分と増えています.統計分野については国として力を入れていきたいということが影響しているのでしょう.定性的な部分の設問では「データが直線上に乗っていれば相関係数は1または-1」ということは,知っているかどうかによって大きく正答率が変わってくるところです.「当然知っているよね」という意味での出題なのか,前半の問題の結果から試験中にそのことに「気付いてね」という意味なのかが量りかねます.後者だとすると,ちょっと酷ではないかと思います.

ここまでが必答問題です.かなりの分量があることが上の分析を読んだだけでも伝わるのではないでしょうか.

以降は選択問題です.これらはそれぞれ20点ずつなのは変化なしです.

第3問 (20点満点) 場合の数・確率

あたりの本数が異なる2つの箱からくじを引くときの確率の問題です.どちらの箱の方が多く当たりくじが入っているかは分かりません.1人目が当たりを引いた方と同じ方を引くのがよいと逆がよいかということが本題です.条件付き確率の問題になりますが,なにやら指示されている通りにやったら答は出たが,意味はよく分からなかったという受験生が多そうです.必答問題よりは定量的な問題が多いものの,センター試験よりは誘導が少ないため,特に最後の方はきちんと前半を踏まえて同様の計算を (しかも無駄なく) する必要があります.

第4問 (20点満点) 整数の性質

天秤ばかりと分銅を使って物体の質量を量る問題です.2種類の重さの分銅を何個ずつ使うかで1次不定方程式の問題になります.前半は問題文を読み進めればよいので平易ですが,後半が1次不定方程式の一般論を知らないと解答しにくい問題だったことが気になります.(4)では,正答数の明示がなく「正しいものをすべて選べ」(過不足があると0点)というタイプの問題が出題されています.このタイプは現在のセンター試験にはなく,共通テストでは数学以外の科目でも一定数出題されるようです.(5)では「3gと8gの分銅を使って量れない質量が何通りあるか」という設問がありますが,これとほぼ同様の問題が例えば2000年の大阪大で出題されています.旧帝大が2次試験で出題するような難易度の問題を小問のひとつとして出題するというのきさすがに難易度の面でいかがなものかと感じます.さらに設問は続いて「0以上の整数 xを用いて 3x+2018と表すことができない自然数の最大値を求めよ.」とより数値の大きい場合については自分で考えよ,という問題になっています.昨年の試行調査でも「整数の性質」の分野で正答率が0.8%の問題がありましたが,あまり改善はされていない様子です.今回も同様の正答率であることが予想されます.

第5問 (20点満点) 図形の性質

いわゆるフェルマー点というものが題材になっています.再び,太郎さんと花子さんとの対話形式です.高校受験時にかなり高度な所まで初等幾何の学習をしたかどうかでできが大きく左右されるような問題です.第3・問4問と比べると計算量が少なく,設問数も最も少ない問題です.その分,最後の方の設問は1問4点だったりと配点が大きいので二極化しそうです.

総評

以上,長々と堀の感想を書いてきましたが,まとめると

  • 問題数がとにかく多い.
  • センター試験より定性的な問題が多い.(前回の試行調査よりは少なくなった)
  • 記述はやや易しくなったが,まだ聞き方が曖昧な部分がある.
  • 問題の題材はとても教育的であるが,70分では難しい知識を知っている人が極めて有利.
  • 誘導がない問題で極めて難しい問題が一部ある.

といったところでしょうか.もし,2020年の本番もこれと同様であれば,受験生は現在のセンター試験対策では対応できないと思います.対策としては

  • 定性的な問題を瞬時に判断できるレベルで各分野を深く理解する学習をする.もちろん,計算力も必要.
  • 教科書の「研究」などに見られる日常生活に関わる部分や,教科書のその先の部分にもできるだけ触れておく.

といったところです.特に後者は独学では何とも難しい部分です.

以上,試行調査数学Ⅰ・Aの分析でした.いかがでしたでしょうか.特に現在高校1年の方は大学入試改革元年の受験生になります.学習に関して,ご相談があればぜひお問合せください.

近日中に数学Ⅱ・Bの分析もお届けします.お楽しみに!