こんにちは!

Star Brain Academy の津久井(つくい)です。

 

 

キョウイクについて考える」の第3弾は

一世を風靡した『学力の経済学』(中室牧子 著)の内容をまとめながら

教育の現場で感じていることをお伝えしようと思います。

 

中室牧子著『学力の経済学』

 

『学力の経済学』は2015年に発行され、

TVなどのメディアでもたびたび紹介されています。

その影響もあり実際にご覧になられた方も多いと思います。

 

保護者の方との面談でも紹介していますが、

実際の教育の現場の視点を踏まえてお伝えします。

 

内容が多くなるため、全3回にて掲載する予定です。

 


目次(クリックすると該当場所に飛びます)

 

 

 

教育の特殊性:1億総評論家

 

 

『学力の経済学』の「はじめに」は次のように始まります。

 

ベストセラーとなった『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社)の著者である西内啓氏は、同著の冒頭で次のように述べています。

「不思議なもので、教育という分野に関しては、全くといっていいほどの素人でも自分の意見を述べたがるという現象がしばしばおこる」

確かに、日本では教育を受けがことがない人はいませんから、教育について一家言あるという人は少なくありません。まさに、「1億総評論家」だとも言えるのです。

 

保護者の方と面談をしていると

皆さんよく情報を集めておられるなと感心させられます。

 

その中で「理想」と「現実」とのギャップに悩み

相談にいらしているわけですが、

ふと「理想の教育」とはなんだろう?と思う時もあります。

 

スターブレイン アカデミーでお伝えする

子どもが幸せに、自分の人生を歩んでいける力を養う」には

共感していただけるものの、やはり本音の本音は

学校の成績が上がり、いい学校・会社に入ること

があることと思います。

 

この点に関して『学力の経済学』では

肯定している1節があります。簡単にまとめると、、、

教育とは人的資本に対しての「投資」である。

投資は早ければ早いほど収益性が高くなり、

高卒と大卒の生涯年収の差は、1億になる。

 

幼少期から教育を始めてあげ

良い学校・会社に行けば安泰した人生が待っている、

親としてそのような状況を作ってあげたいのは至極当然のことと思います。

 

しかし、次の3点には注意すべき点があります。

  • 人的資本には、「学力」だけではなく「しつけ」「コミュニケーション能力」なども含む
  • 社会が変わり終身雇用制が崩れた今、学歴と生涯年収の関係が変わる可能性がある
  • いわゆる「サクセス・ストーリー」真似ても、同じように成功できるとは限らない

 

1つ目は、「教育=投資」ではあれども「教育=学力」ではないということです。

よくある相談に「ゲーム中毒」があります。

 

「1日8時間もゲームをやっているんです」

 

もちろんゲームだけをやっていてもよくないのですが、

スターブレインではあえて誉めることもします。

 

「そんなに集中して続けられるなんてスゴイね!」

 

これまでゲームで怒られてきた子どもたちは戸惑います。

そして、自分を認めてくれたことで心を開いてくれるようになります。

 

他にも、マンガやアニメにハマっていても

興味のあることに対する「暗記力」や「情報収集力」など

子どもの力は多岐にわたります。

 

こういった「集中力」「暗記力」「情報収集力」も

「学力」を伸ばす要因です。

 

2つ目に関しては、社会の変化に対応できるかも関わってきますが

この点は次回に話そうと思います。

 

3つ目に関しては、以前のブログ(フシギな勝ちとフシギな負け)に

書いた内容と重なるため記事の紹介に留めておきます。

なお、先程紹介した西内氏も同様の発言をしています。

 

どのような教育がいいか、という問いへの回答は、教育される本人の特性や能力、環境などさまざまな要因によって左右される……(中略)自分が病気になった時に、まず長生きしているだけの長寿の長寿の秘訣を聞きに行く人はいないのに、子どもの成績に悩む親が、子どもを全員東大に入れた老婆の体験記を買う、という現象が起こるのは奇妙な事態だとは思わないだろうか」

 

やや辛辣な発言ではありますが、的確な指摘と思います。

 

ちなみに、「1億総評論家」は大宅 壮一さんの言葉だそうです。

 

テレビによる「1億総白痴化」を指摘していましたが

同時に「口コミ」等による情報発信が発達し

批判的コミュニケーションが生じることも予見。

皆がみな、批判的に情報を受け、双方向的にコミュニケーションするとして

「1億総評論家」を造語したのだそうです。

(「口コミ」も大宅 壮一さんの造語)

時は、1958年。先見の明にもほどがありますね。

 

 

教育経済学で何がわかるのか?

 

 

前項では、「教育の特殊性」として

「誰もが教育を語ってしまう」性質をお伝えしました。

 

誰もが教育を受けていることもあって

自分の経験やメディアで目にする情報をもとに

「教育とはかくあるべきだ」と論じてしまうものです。

 

それでは、教育経済学的な観点ではどうなのでしょうか。

この項では「親の関わり方」というテーマ、

特に次の3つを紹介します。

 

  • 勉強に対する「ご褒美」は効果的か?
  • 「褒めて伸ばす」ことは意味があるのか?
  • 父親と母親の関わり方の違いは?

 

1つひとつ見ていきます。

 

◆勉強に対する「ご褒美」は効果的か?

 

結論としては「短期的行動に対しては効果的」です。

ただし「報酬はインプットに対してのみ効果を発揮する」という限定付き。

 

そもそも人間とは、短期的思考が優勢になりがちです。

すぐに得られる満足を優先してしまいます。

 

『学力の経済学』で紹介されている例では、以下の対比があります。

皆さんもご自分がどのように行動するか考えてください。

 

ケース1:半年後に5,000円もらえるが、さらに1週間待つと5,500円もらえる(+500円)

ケース2:今日5,000円もらえるが、さらに1週間待つと5,500円もらえる(+500円)

 

 

大抵の人はケース1では我慢できます。

半年も待っているので、そこから1週間程度伸びたところで変わりませんね。

 

しかし、ケース2になると判断が分かれるところです。

すぐにもらえる5,000円に価値を見出してしまう人も多いでしょう。

 

これが目先の満足を優先するということです。

 

しかし、この性質を逆に利用しようというのが

ここでのポイントです。

 

目先に定期テスト、もしくは宿題がある場合、

そこに「ご褒美」を提示すると

食いついてくる率が高くなるのですね。

 

しかしながら、ここで大事なのは

「何に対して」ご褒美をあげるかなのです。

 

次のどちらにご褒美をあげると効果が発揮されるでしょうか?

 

・インプット:読んだ本の量、覚えた単語の数、出席回数など

・アウトプット:成績が◯◯点アップ、通知表がオール5(4以上)など

 

これはハーバード大・フライヤー教授が提唱した

「インプット・アウトプット アプローチ」と呼ばれるものです。

 

フライヤー教授が実施した「ご褒美実験(原文はコチラ >>> https://brook.gs/3l9qVt9)」では、

インプットに対してのご褒美に効果があった」との実験結果が出ています。

 

Allan&Fryer(2011), “The Power and Pitfalls of Education Incentives.”より引用

 

この結果には、次のような背景があります。

 

  • インプットには、具体的な行動が示されているのでやりやすい
  • インプットは、行動自体が評価されるので、やる気につながる
  • アウトプットは、成績上昇に対して何をすれば良いのかがわからない

 

逆に言えば、アウトプット・アプローチでも

「具体的な行動」を示してあげると結果につながるそうです。

 

さて、「ご褒美」について見てきましたが、

簡単にまとめると次のようなことに意識を向けると良いようです。

【ご褒美のルール】

・ご褒美をあげるときは、短期的なことに対して与える
・ご褒美は、インプットを中心に与える
・特に、「本を1冊読む、15分読む」のような行動を明確に示すと良い

 

教育経済学でわかる「親の関わり方」

 

 

残り2つの項目を見ていきます。

 

◆「褒めて伸ばす」ことは意味があるのか?

 

こちらも結論からお伝えすると、

褒めて伸ばすは、当然OK!

・ただし、努力を褒めること!!

 

日本は特に、成長とともに自尊心の低下が激しいと

報道されることも多いですね。

 

褒めることは、自尊心に繋がります。

多くの調査で「自尊心と学力」には関係があると証明されていますが、

ここで大事なのは、「因果関係」か「相関関係」かということです。

 

因果関係とは、ある事柄Aが起きると、必ず別の事柄Bが生じることです。(A→B)

相関関係とは、事柄Aと事柄Bが同時に起きるが、前後関係が固定されていません。(A⇆B)

 

もしも、「自尊心と学力」の間に「因果関係」があれば、

自尊心の高い人は、必ず学力が高い、ことになります。

 

そうではないですよね?

 

むしろ、自尊心が高いから勉強する人もいれば

勉強していくうちに自信をつけて自尊心が高まることもあるはずです。

 

さらには、バウマイスター教授の調査によると

どちらかというと「学力が高い → 自尊心が高まる」という

因果関係が確認されたとのことです。

 

The modest correlations between self-esteem and school performance do not indicate that high self-esteem leads to good performance. Instead, high self-esteem is partly the result of good school performance. Efforts to boost the self-esteem of pupils have not been shown to improve academic performance and may sometimes be counterproductive.

自尊心と学力にはゆるい相関関係があるが、それは自尊心の高さが学力につながること(=因果関係)を示すものではない。むしろ、学力が高い結果として自尊心が高まっているという側面もある。生徒の自尊心を高めようとすることに、学力を向上させる証拠はなく、時には逆効果になることもある。(津久井訳)

Roy F. Baumeister, Jennifer D. Campbell, Joachim I. Krueger, and Kathleen D. Vohs.(2003) “DOES HIGH SELF-ESTEEM CAUSE BETTER PERFORMANCE, INTERPERSONAL SUCCESS, HAPPINESS, OR HEALTHIER LIFESTYLES?” PSYCHOLOGICAL SCIENCE IN THE PUBLIC INTEREST, p1 Summaryより抜粋

 

同じ調査でも述べられているのは、

自尊心には幸福感を高め、暴力行為を減らす効果もある。

 

もっとも、これも因果関係とは言えないため

「自尊心→幸福増・暴力減」か「幸福増・暴力減→自尊心」の順番は

わかりませんが。

 

このように、世の中には「相関関係」が

あたかも「因果関係」と誤解されているものが少なくありません

 

例を挙げるなら、入試でもよく出てくる

  • テレビやゲームとの学力の関係
  • 暴力的メディアと暴力性の関係
  • 読書と学力の関係

 

これらは全て相関関係であるにもかかわらず

因果関係かのように理解されることが多いです。

 

私は職業柄、こういった論文の一部を読むことが多いのですが、

様々なデータによって、テレビやゲームの利点が証明されています。

 

現在の入試はどちらかというと、

「テレビやゲームいいぞ!」という内容が多いのは興味深いところですね。

 

『学力の経済学』でも上記のことは述べられており

次のような良い影響が紹介されています。

 

  • 幼少期のテレビが学力を高めている(シカゴ大 ゲンコウ教授)
  • 「セサミストリート」が子どもの学力に良い影響(テキサス大 ヒューストン教授)
  • ロールプレイングなどのゲームは、創造性や忍耐力を育む(ハーバード大 クトナー教授)

 

クトナー教授の著作

 

その他、ゲームによって「マルチタスク能力」が高まるとの

論文も入試問題で読んだことがあります。

(出典は不明ですが…)

 

結局、何事もやり方次第かなといったところです。

 

さて、閑話休題。

冒頭「褒めること」はOKとの結論を紹介しましたが、

どのように褒めると良いのでしょうか?

 

秘訣となるのは、

「能力・頭の良さ」ではなく「努力」を褒めること!

 

ヴァージニア連邦大のフォーサイス教授の実験では、

テスト結果を褒めるときに、「才能」と「努力」を褒めたグループに分けます。

 

その後、難しいテスト(2回目)と簡単なテスト(3回目)を追加で実施した結果、

「才能」を褒められたグループは、得点率が下がり

「努力」を褒められたグループは、得点率が上がりました。

(Forsyth, D. R., & Kerr, N. A. (1999). Are adaptive illusions adaptive?)

『学力の経済学』p50より抜粋

 

ここからわかるのは、「才能」を褒めてしまうと

出来ても出来なくても「才能のおかげ、才能のせい」と思ってしまい

努力などの他の行動が抑制されることです。

 

対照的に「努力」を褒めると

結果に関わらず挑戦しようとする傾向にあるようです。

 

褒める際には、

「あなたはやればできる」(才能)ではなく

「◯◯を1時間もやったんだね」と努力を褒めましょう。

【褒め方のまとめ】

・褒めることは問題なし
・褒めるなら努力を褒める
・学力ががあるにつれ、自尊心が高くなる可能性がある

 

◆父親と母親の関わり方の違いは?

 

最後の項目です。

以下のデータをご覧ください。

 

『学力の経済学』p59より抜粋

 

グラフが右に伸びているほど効果のある行動です。

 

母親の項目だと「勉強するように言っている」は

効果がないどころか、女子に対してはマイナスの影響もあります。

 

対照的には、父親は「勉強したか確認している」に効果がありません

 

逆に言えば、母親は「勉強する時間を決めて守らせる」

父親は「勉強を見ている」の項目は効果があるとの実験結果です。

 

いかがでしたか?

 

教育経済学という不思議な学問分野を見てみると

私たちが「思い込んでいたこと」がデータ上で正しいのかどうかがわかります。

 

もちろん、データはデータであり、

その平均値に当てはまらない子どもいるとは思いますが、

知っていると知らないとでは大違いでしょう。

 

次回も、引き続き『学力の経済学』の内容を

紹介していきたいと思います。